北海道大野記念病院
→心臓血管外科
→経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)
経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)
Transcathter Aortic Valve Implantation
近年、カテーテルで心臓の弁(大動脈弁)を治療できる時代になりました。
当院のTAVIについて御紹介いたします。
- 1. はじめに
-
高齢者の増加に伴い、大動脈弁狭窄症が増加しております。その治療は従来は
人工弁置換に代表される外科治療でした。しかし、近年デバイスの発達に伴い、
経カテーテル大動脈弁治療(TAVI)が出現し、2013年10月より日本でも保険適
用となりました。そして当院でも2015年12月にTAVI実施施設に認定され、2016
年03月よりTAVIを開始しております。今回はこのTAVIについて説明させて頂きます。
- 2. 心臓について
-
心臓は全身に血液を送る大切なポンプの役目をしております。全身に酸素を届
けた後の血液は右心房に戻り、そこから右心室、肺動脈を経て肺に送られます。
肺で血液は酸素化され、左心房に送られます。そして左心室、大動脈を通って、
また全身に酸素を届けるため送られます。心臓は一日に10万回もの収縮と拡張
を繰り返し全身に血液を送っています。血液の流れを一定にするために、そし
て効率よく心臓が血液を送り出すために、心臓の中の各部屋の出口には”弁”
が付いています。この弁に障害が起きると心臓弁膜症という疾患になります。
- 3. 大動脈弁狭窄症とは
-
大動脈弁狭窄症とは心臓にある弁の一つ、左心室の出口すなわち大動脈の根元
にある大動脈弁が硬くなり、開きにくくなった病気です。軽症のうちはほとん
ど自覚症状がありませんが、病状が進行すると動悸や息切れ、倦怠感や胸痛が
出現します。さらに重症になると失神や突然死をきたすこともあります。症状
が出現した場合、その患者の半数は2年以内に命を落とすという統計もありま
す。
- 4. 大動脈弁狭窄症に対する治療
-
大動脈弁狭窄症に対する治療には内科的治療、外科的治療、そしてTAVIが挙げ
られます。
- ・内科的治療
-
症状が軽い場合は薬により症状を緩和したり経過観察を行います。これは硬く
なった弁を直接治すわけではないため、定期的な検査による再評価が必要にな
ります。重症化してくると薬による治療は困難となり、外科治療かTAVIが必要
となります。
- ・外科的治療
-
大動脈弁置換術が代表的な治療方法です。硬くなった弁を外して人工弁を植え
込みます。長期成績も確立しており、現在日本における第一選択の治療法となっ
ています。早期に手術を受けるほうが術後の経過や心臓の機能回復が良いため、
手術のタイミングを適切に判断することが重要となります。人工弁には二種類
あり、生体弁と機械弁があります。生体弁はウシやブタの生体組織を用いたも
ので、血栓ができにくいという特徴を持っています。そのため抗凝固薬は術後
3ヶ月程度で中止が可能です。そのかわり耐久性は10〜20年くらいです。一方、
機械弁は耐久性は半永久的であり、一度植え込みますと一生もちます。半面、
金属のため血栓が形成しやすくなり、このため一生抗凝固薬が必要となります。
全身麻酔下に胸を開き、人工心肺装置を装着して、心臓を止めて行う治療です。
多くの場合は胸の真ん中を開き、胸骨を切開します。
- ・TAVI
-
Transcatheter Aortic Valve Implantation の略であり、日本語では経カテー
テル的大動脈弁治療と言われています。手術で大きく胸を開くことなく、また
心臓を止めることなく、カテーテルを用いて人工弁を患者の心臓に留置します。
低侵襲に加えて、人工心肺を使用しなくて済むことから、患者の体への負担も
少なく入院期間も短いのが特徴です(図1)。
図1
- 5. TAVIとは
-
TAVIは高齢のために体力が低下し、またはその他の疾患のリスクを持っている
ため、外科的治療を受けられない方への治療法です。そのため、治療に伴い合
併症が発生することもあり、治療実施の判断には医師の診断が必要です。TAVI
には経大腿アプローチと経心尖アプローチがあります。経大腿アプローチは足
の付け根にある大腿動脈からカテーテルを挿入して行います(図2)。経心尖
アプローチは左胸を小さく開けて、心臓の尖端からカテーテルを挿入する方法
です(図3)。どちらも抗凝固療法は不要で、治療後半年間は2剤の抗血小板
剤が必要です。TAVIのメリットは高齢で体力が低下している、もしくはその他
の疾患などのリスクを持っているなど、外科的治療ができなかった患者さんに
とって、新しい治療の選択肢となることです。また開胸することなく、心臓を
止めることなく、カテーテルを使って人工弁を留置しますので、非常に低侵襲
です。そして、手術時間と入院期間が短いため、患者さんの比較的早い社会復
帰が期待できます。
図2
図3
- 6. おわりに
-
このように、大動脈弁狭窄症に対する非常に低侵襲な新しい治療法であるTAVI
ですが、その長期成績はまだ明らかではなく、現在では外科治療(大動脈弁置
換術)が受けられない、あるいは非常にリスクが高い患者に対してのみ施行さ
れます。それゆえに術前より状態が悪い方や、そもそもリスクの高い方が多く、
低侵襲のTAVIといえども一旦合併症が生じると予後不良になる可能性が高いで
す。そのため経験豊富なハートチームによる慎重な適応決定や治療が行われる
必要があります。