北海道大野記念病院心臓血管外科 →右開胸小切開心臓手術(MICS)

右開胸小切開心臓手術(MICS)

Minimally Invasive Cardiac Surgery
近年、小さな皮膚切開にて心臓手術を行う、いわゆる小切開心臓手術(MICS) が普及しています。当院で施行しているMICSについて御紹介いたします。
【定義】
心臓における低侵襲手術を明確に定義したものはありませんが、以下の2点が 広く受け入れられています。1点目は人工心肺を使用しない心臓手術です。2 点目は胸骨正中切開を行わない心臓手術であり、ポートアクセス法とも言われ ているものです。その多くは右前胸部に小切開を置き、小さく右開胸を行い、 そこから心臓手術を行うものです。現在、単に「MICS」と言う場合はこの右開胸小切開心臓手術を指すことが多いです(図1)。
図1fig1

【方法】
手術体位は右胸を前方に出す左半側臥位とし、右腕を背側へ伸展し右側胸部を 大きく露出する体位とします。皮膚切開は男性では右乳頭下部から第4肋間に沿っ て外側に切開する、女性では右乳房外側縁を切開します、これにより術後の傷 が目立たなくなります。人工心肺の送血は右大腿動脈あるいは上行大動脈から 行います。脱血は右内頚静脈と右大腿静脈から脱血管を上下大静脈に挿入しま す(図2)。
図2 fig2

【適応】
MICSの良い適応となる疾患は、僧帽弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症、三尖弁閉鎖不全症、 大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、心房中隔欠損症、卵円孔開存症、左房粘液腫、 心房内腫瘍、ペースメーカーリード抜去術などが挙げ られます。

【考察】
MICSのメリットは創部が小さいため、術後の回復が早い点がまずあげられます。 胸骨正中切開の症例に比べ、両上肢の運動による疼痛が無く、離床が進みます。 退院してからも両上肢への負担は特別に制限することはないので、早期に社会 復帰、就業が可能です。胸骨を切開しないため、これに伴う骨髄炎や縦隔炎と いった重篤な合併症を予防することも大きな利点です。痛みや出血が少なく、 これにより輸血の回避や軽減が可能です。創部が小さく、特に女性においては 美容上有利です(図3、図4)。
図3fig3
図4fig4

また、従来の再手術では、以前の胸骨正中切開部を再度切開するため、癒着剥 離を広範囲に行わなければなりません。これに伴う、心臓や肺への癒着剥離は 危険性を伴います。特に冠動脈バイパス術後であれば、開存しているグラフト を損傷することは生命の危険に直接関係しています。これに対してMICSによる 再手術の場合は右心房自由壁、左心房ならびに右肺静脈前部、そして大動脈根 部の一部のみを剥離することにより僧帽弁手術が可能であり、再手術において は非常に有利であると考えます。

MICSのデメリットとしては、どの施設でも行えるという訳ではなく、専用の手 術器具が必要であり、またMICSを習熟したチーム(手術室看護師、麻酔科医、 臨床工学技士、臨床検査技師、外科医)でなくては不可能であるという点です。 また狭い視野からの手術であり、ある程度の技術が外科医には要求されます。

【最後に】
当院では2012年11月より右開胸小切開開心術(MICS)を開始し、既に70例以上の 手術を行っています。(死亡例無し、正中切開への移行例無し)通常の胸骨正 中切開による手術と遜色ない成績であり、結果は良好でした。今後も当院では 可能な限り低侵襲手術を行っていきたいと考えております。
「心臓血管外科」大川 洋平